【STORY】Vol.4 海帰りにYOMOでよもぎ蒸しを

――チャプ…チャプ…。

 

まだ明け方の薄暗い時間帯。祐花はボードに跨りながら、沖の方をじっと見つめていた。

 

いくらタッパー(上半身のみのウェットスーツ)を着ていようと、初夏のこの時期は、まだ水温が20℃前後のため、さすがに体が冷えてくる。

 

(次のセットでラストにしよう。香奈もさっき上がっちゃったし、ちょうどいいよね。)

 

一定の間隔でまとまって入ってくる、比較的大きな波のことをサーフィン用語で「セット」というのだが、祐花はこのセット待ちをしていたところだった。

 

(あ、来た…!)

 

沖のうねりが僅かに大きくなったのを確認すると、祐花はゆっくりとボードの先を浜の方へと旋回させる。 うねりがだんだんと大きく、そして速くなってくるのを逃げるようにパドリングをし、とうとう波に追いつかれた!というタイミングで、祐花はおもいっきり立ち上がった。

 

――ザァ――――――――!!

 

――――――――

 

ラストムーブを終え、お団子にしていた髪をほどきながら駐車場まで戻ると、先に戻っていた香奈が助手席から顔を出した。

 

「おかえり~!もう寒さの限界で、ごめん、先に上がって来ちゃった。」

 

「全然大丈夫!私も寒すぎて今ヤバい…!すぐ着替えるかもう少し待っててー。」

 

荷物を入れている車のバックドアを開け、手早く着替え始める。 家から入れてきたペットボトルの水で足先の砂を洗い流しながら、香奈に声をかける。

 

「この後って、香奈はどんな予定?すぐ帰りたいとかある?」

 

「今日は完全OFFだから、任せるよ~!この前みたいに気になってるカフェがあれば付き合うし、そのまま帰るなら帰るでもOKー!」

 

助手席から、カラっとした声が返ってきた。

 

(う―――ん、どうしよっかなぁ。この前行ったbillsのカフェもおいしかったし、なんかまたカフェ開拓しようかなー…。)

 

1人思考を巡らしていると、助手席からまた声がしてくる。

 

「ねーねー!個人的になんだけど、温泉とか岩盤浴に行きたい気持ち。 ちょっと体が冷えてるから、ゆっくり温まれるところに行けたらいいな~なんて…!」

「え、めっちゃ良い! 待って、それだったら、最近ハマってるよもぎ蒸しに行くのはどお!?」

 

「よもぎ蒸し、なんか聞いたことある。 最近流行ってる…よね?この前テレビでも特集されてるのも観た~!」

 

「そうなの、私もインスタで気になってから行ってて、今は週1ペースで通ってるんだよね。行ってるところも代官山でおしゃれだから、よもぎ蒸しした後に近くのカフェでランチするのはどお?」

 

「え、最高。完璧ルートじゃん。それで行こ~!」

 

自分のお気に入りスポットに友人と行けるという高揚感を胸に、運転席へと乗り込んだ。

 

――――――――

 

「すごい、こんな隠れ家みたいにあるお店なんだね。」

 

「そう、完全プライベートサロンらしいんだけど、もう入口からそんな感じするよね。」

 

駅近くのコインパーキングに車を停め、ウッドデッキが特徴の建物へと足を運ぶ。

 

 

3階まで上がるといつものように店長さんが挨拶してくれ、よもぎの香りがたっぷりとする部屋へと誘われた。

 

「わぁ…!なんて言うか、とってもラグジュアリーなお部屋だね。」

 

「ね…!私もこのお部屋は初めて。いつもはもう一つの方の部屋なんだけど、今回はせっかくだから、こっちの部屋を予約してみちゃった。」

 

2人でキャッキャッと盛り上がっていると、店長さんがお部屋の説明をしてくれる。 YOMOには「太陽のお部屋」と「月のお部屋」の2種類があり、今回予約できた「月のお部屋」は、 日常から離れて無を味わう、極上のプライベート空間。 というのがテーマなんだそう。

 

カウンセリングを受けた後に、2人で専用のガウンへと着替え、いざ椅子へ。

 

蒸され始めて数分すると向かい側に座っている香奈が
「さっきまであんなに寒かったのに、もう汗ヤバいんだけど…!」
と驚いている。

 

岩盤浴とはまた違った感じでいいねとも言いながら、フードの下から赤らんだ顔が見える。

 

「そうなんだよね。私冷え性もあるから、体質改善もしたくて通ってるんだ。」

 

祐花も同じく赤ら顔で返しながら、上品な空間で残りの時間「無」になりながら蒸され続ける。

 

――トントントン
「失礼します。お疲れ様でした!」

 

店長さんの声かけを合図に改めて2人で顔を合わせると、お互いさっきよりも汗をかいていて笑い合う。

 

帰り道、ウッドデッキな階段を降りながら「え~、よもぎ蒸しいいかも…!」と、はじめてよもぎ蒸しを体験した香奈がテンション高めに言っていたのを
「じゃあサーフィン行ったときには、ここに来るのもルーティンにしちゃう!?」
全然ありだねと盛り上がりながら、今日もYOMOを後にするのだった。

 

~続く